東日本大震災により、仮設住宅への移住や商店の閉店など、コミュニティーの分断が余儀なくされ、なおかつ以前から続く高齢化と若年層の空洞化により、日常生活における買物や交通に課題が生じている地域において、ICTを活用した食品(生鮮食品を除く)や日用品の無人販売所の運営事業を株式会社NTTドコモと協業で展開しております。
現状、気仙沼市における仮設住宅の多くが公有地に建設され、中には周囲2kmの範囲に日用品や食料品を購入する店舗が存在しない箇所があります。また、全国の地方エリアでも同様に高齢化が進み、自ら車両を運転して移動することがなく、本数の少ない公共交通機関を利用して移動している状況があります。
平成22年の内閣府による「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」では全国の高齢者の17.1%が日常の買い物に不便を感じているという結果が出ており、気仙沼市内の仮設住宅でも不便なところではバスが一日二本しかなく、運転をしなくなった高齢者が「交通弱者」となり、地元の小規模商店も減ったことで周囲に買い物をする場所がない「買い物弱者」となっている現状が見られます。
また、買物が困難なエリアにおいては、野菜やコンビニエンスストアの移動販売、スーパーマーケットへの送迎バスなどがあります。
しかし、あくまでも定期であるため望むタイミングでの買物はできず、高齢者にとって送迎バスの移動し、購入品をもってバスで帰るということは非常に大変なことであります。ネット社会の昨今、コモディティ商品もインターネットを利用して購入する手段もありますが、高齢者にとっては大きなハードルがあります。
一方、民間企業にとっても人件費や燃料費などのコスト面から、販売やバスの頻度を増やすことが難しく、ある程度の世帯数があるエリアを優先せざるを得ません。そうなると、利便性の格差は広がってしまうことが容易に考えられます。
そこで、タブレット端末・セルフレジアプリを活用したプリペイド決済方式の無人販売所システムを設置し、利用者自らが操作して商品(生鮮食品以外)を購入できる仕組みを構築し、運営のコストを低く抑えながら、買物の利便性を向上させ、同時に乗り合いタクシーを利用できる環境を整備する事業を展開することに致しました。
無人店舗は、その名の通り常時店員がおりません。そのため、商品を盗難することは容易に可能です。もちろん事業である以上、盗難リスクに対して放置することはせず、防犯カメラや営業時間外の自動施錠などの対策を講じております。しかし、地方の中山間地域や買物が困難な地域はコミュニティーの密度、および倫理観が非常に高いと考えます。
事実、気仙沼市内の山間部に農家の方が運営されている野菜の無人販売所がありますが、そこは30年続いています。当然ながら、盗難は皆無ではないですが、微々たる程度だと話しておりました。
また、この仕組みは多くの利用者である地域の方々と共に育てていくものです。なぜならば、撤退を選択しなければならないほどの盗難が発生した場合、我々もそうですが何よりそれまで店舗を利用していた方々にとって、身近な場所で買物ができなくなる、次からはバスで、車で買物に行かなければならないという状況になります。
従って、そのような状況にならないためにも運営側と利用者の双方が協力しながら維持していく必要があるのです。
気仙沼市での本事業における商品の仕入れや流通に関しては、全て地場の民間企業様と提携し展開しております。商品は地場の卸業者様、流通は気仙沼観光タクシー様に担っていただき、店舗の売上を外へ流さず、地元経済へ還元することで地域経済の歯車の1つになることも重要なポイントであります。
世界で最も高齢化が進む日本、特に地方の少子高齢化で起こる多くの課題や問題があります。しかし、それはチャンスでもあります。
株式会社NTTドコモ 東北復興支援室 馬場勝己、内藤宣仁
変幻自在合同会社は気仙沼市に深く根付いたITベンチャーです。代表の清水さんは町の人たちが震災前から直面している社会課題を住民との深い交流の中で肌で感じ、単なるボランティアでなく、地域の経済に波及効果をもたらしつつ解決するというビジネスの視点で果敢に挑戦し、成果に結びつけました。
清水さんとともに「顔見知りのおじいちゃんや気さくに付き合ってくれる商店街の人たちの笑顔が見たい」という熱い思いで突き進み、振り返ってみると、そこに結果としてビジネスモデルめいたものが成立していたというのが正直なところですが、熱い思いが無ければ例え同じモデルを机上で描けていたとしても実現には至らなかったと思います。
私たちドコモも、変幻自在合同会社の熱い思いと冷静な分析力に多くを学ばせていただきました。